聖なる生活

テサロニケの信徒への手紙一 4章1〜12節

 このテサロニケの信徒への手紙一は、パウロが一番最初に書いた手紙で、紀元50年頃にコリントで書かれたと言われています。パウロがテサロニケに伝道したのは、第二回伝道旅行の時でした。テサロニケの信徒への手紙には、テサロニケの信徒たちの信仰を喜びつつ、その置かれている状況を気遣うパウロの慰めと励ましの心が感じられます。

 まずパウロは1節で「あなたがたに勧めます」と書き始め、今歩いているように、なおその歩みを続けるようにと願っています。私たち人間にとって大切なことは、自分に与えられた人生をこつこつ歩んでいくだと思います。それには、その歩みを見守り、励まし、ある時は慰めてくださるお方がいらっしゃることを信じることが大切です。
 2節でパウロは、あなた方に信仰を教え、新しい生き方を教えたと言います。「今歩いている」ということは、神を信じた者が、すでに主イエスによる新しい生き方を始めているということです。それを続けなさいと励ましているのです。さらに3節以下では、単なる道徳的な清さだけではなく、主イエスによる神の聖さに見合った聖い生活をするようにと励ましています。私たちは、私たちの歩みを尊びつつ見守ってくださるキリストのまなざしの中で、精一杯聖く生きる努力をしなければなりません。なぜなら、信じる者の内には、神の霊が住んでおられ、私たちは聖なる者となっているからです。それは私たちの生活のどの場面においても、神が共におられるという慰めと励ましです。

 それからパウロは、テサロニケの信徒たちに、落ち着いた生活をし、自分の仕事に励みなさいと勧めています。それはいつの時代でも、誰にとっても大切なことですが、当時、キリスト教が始まったばかりの時代にあって、キリストを信じて生きていくことは大変なことでした。今まで聞いたことのない、全く新しい教えですから、信じるには一大決心が必要でした。それは家族や周囲の人たちから決別することでもあったかもしれません。ある人は、日頃親しくしていた人と気まずくなり、疎遠になっていったかもしれません。さらに当時は、キリストの再臨が近づいているという信仰もありました。そのため一種の興奮状態もあって日常生活が手に着かなかった人もいたようです。そのような人たちに向かって、パウロは「落ち着いた生活をしなさい」と説いたのです。
 パウロが教えた福音を信じる生活は、決して劇的な派手な生き方ではありません。日常生活に埋没する事でもありません。与えられた日々の生活を、新しく主から受け取りなおして生きることです。主を信じる者の生活は、日々様々な出来事がある中で、ただ神を信じて静かに動かされずに生きることです。それが神と伴なる聖なる生活です。

 ここには互いに愛し合うようにと、兄弟愛のことも書かれています。これは、自分の仕事に励むということと密接に関係します。つまり信仰生活の土台として、「自分の仕事に励み、自分の手で働く」ことができるような自立した人こそが、兄弟愛にも生きることができるということです。ここには自然体で健やかで、静かな歩みがあります。与えられた仕事を喜んでこつこつと行っている人のところには、神の光が照らしているのです。それは神から来る品位ある姿です。それが聖なる落ち着いた生活、神に喜ばれる生活です。

(牧師 常廣澄子)