イスラエルの残りの者

ローマの信徒への手紙11章1〜10節

 ローマ書9章~11章は、いわば“全人類の救い”を大きなテーマとして進められており、その11章に入った1節で、直前の段落までの“異邦人がイスラエルより先に神の義を得ている”と記されていることなどを踏まえつつ、「では尋ねよう。神は御自分の民を退けられたのであろうか」と、問いを発し、その直後に「決してそうではない」と否定しておりますが、それは、詩編94篇14節の、「神は御自分の民を決しておろそかになさらず、御自分の嗣業を見捨てることはなさいません。」に基づき、「神は、前もって知っておられた御自分の民を決して退けたりなさいませんでした。」と、神の普遍的な愛を示しております。続いて2節後半では、「エリヤについて聖書は何と書いてあるかを知らないのですか」と、列王記上17章から19章に記されている、いわゆる“エリヤ物語”の中で、神がエリヤに示されて大きな恵みと、愛のことを喚起させようとしております。

 では神が、大きな危機に直面していたエリヤに対して語り掛けてくださった、思いもよらない大きな恵みの言葉、そして大きな励ましの言葉をまず確認いたしましょう。
エリヤは北イスラエルの初期の頃の預言者ですが、当時北イスラエルは、アハブ王、イゼベル王妃の主導のもと偶像礼拝が蔓延しており、主なる神への礼拝を蔑ろにしていた惨状をエリヤは憂いて、立ち上がりました。その当時大きな干ばつ、飢饉がイスラエルを襲っておりましたので、偶像礼拝に仕える預言者合計850人をカルメル山に集結させて、これに主の預言者を対決させました。その対決とは、双方自分たちが祀る神に祈りを献げさせ、どちらの神がその祈りに応え、干ばつ、飢饉を救うために、応えてくださるかを、競わせるものでした。

 その結果は、主ヤハウェなる神がこれに応えてくださり、主の預言者が勝利を納めたのです。しかしそれもつかの間、イゼベルはエリヤへの仕返しを企て追跡させます。エリヤはその難から逃亡中に、疲労困憊して眠りこけた時、主がエリヤに現れました。エリヤは弱音を吐き、主にこう訴えました。「主よ、もう充分です、わたしの命を取ってください」と、さらに続けて「彼ら(イスラエル)はあなたとの契約を捨てて主の祭壇を壊し、主の預言者を亡き者にして、わたし一人だけが残りました」、と訴えました。

 エリヤの訴えに対して主は、「わたしはイスラエルに七千人を残す」と言われました。この言葉はローマ書11章4節には「わたしは、バアルにひざまずかなかった七千人を自分のために残しておいた」と記されております。エリヤが言った「一人」に対して主の言葉の「七千人」、その字義通りは“七千人”とその莫大さはもちろんのこと、「七」すなわち完全数の百倍、千倍もという意味もあります。
 神は、ご自分の“新しい時代の御国建設”のため、十分な人数、七千人もの人をいわば、“残りの者”として残し、大きな恵みを与え、期待を寄せていてくださるのです。
 わたくしたちも、神の大きな恵みにお応えし、力強く福音を宣べ伝えて参りましょう。

(牧師 永田邦夫)