「神はわがやぐら」という讃美歌があります。(新生讃美歌538番、日本基督教団讃美歌267番)これは宗教改革者マルティン・ルターが詩編46編を基にして作ったものです。力強い神の約束が荘厳なメロディーと調和して、誠に重みのある讃美歌です。この曲は、ルターが1517年10月31日に95か条の提題を掲げて改革の火ぶたを切ってから10年くらいたった頃に作られました。当時の教会は罪が赦されると銘打って贖宥状を乱売していましたが、ルターは修道士として厳しい修業をしながら必死で神に祈り、徹底的に聖書を研究し、終に人が義とされるのは律法の行いではなく信仰によるのだ(ローマの信徒への手紙1:17、3:28)ということを見い出し、この提題を掲げたのです。それからのルターは、神が求められる本当の信仰、本当の教会を求めて苦闘していきます。しかし、その戦いはなかなか終わらないばかりか、ますます悪化していきました。ルターはこの間に重い病気にも見舞われ、その頃はヴィッテンベルク城の奥にかくまわれ、孤独な境遇の中にいたのです。そして何よりも、ドイツ皇帝(カール5世)とローマ教皇とが互いに提携してルターに対抗していました。彼の身の上には、大きな危険が迫っていた時期です。この曲が作られた背景にはそういう状況がありました。そのことを思いますと、歌詞の一つ一つがルターの神への信仰を歌っていることがわかります。この讃美歌は人生の深い淵から発せられた純真な信仰告白であり、神の栄光を歌う賛美です。